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『アウトロー』 - カーチェイスが素晴らしい


素晴らしきセットアップ

自室で黙々と弾丸を組み立てる男。バンは走りだし、ビルの立体駐車場に車を停める。ライフルを取り出した男は呼吸を整え、ビルから川を挟んだ対岸を行き交う人々に照準を合わせる。子供を連れて歩くベビーシッター、ベンチで休むサラリーマン、階段を登るキャリアウーマン、高級店の買い物袋を持った婦人・・・。彼らをスコープ越しに観察し、そして、次々と射殺していく。白昼堂々、6発の弾丸で5人を葬り去った凄惨な事件。警察はすぐさま犯人が使用したと思われる駐車場を特定し、そこから使用積みの空薬莢、指紋の残った駐車料金用の硬貨を回収。容疑者を割り出し、逮捕する。
動かぬ証拠が揃っている。弾丸も指紋も一致しているこの容疑者、自白を認めるサインの書類に自分の名前ではなく、紙面いっぱいに大きな字で書かれた言葉は「ジャック・リーチャーを呼べ」。

これはオープニングの15分ほどのあらすじであり、まずこの作品を観始めて「凄い!」と思った部分だ。この脚本家はわかっている、そして卓越した技量を持っていることを示している。
一体何が卓越しているのか。

容疑者が逮捕されサインを促されるシーンまで、なんと一言もセリフが無いのである。
真犯人、犠牲者、捜査官、容疑者。彼らの行動だけを視覚的に追うだけで、この事件の、この映画の舞台設定を整えてしまったのだ。しかも彼ら自身から何の説明もなく。
これは教科書が理想とする脚本だ。さすが『ユージュアル・サスペクツ』の脚本家である。

一番の見どころはカーチェイス

さらにこの映画にはもう一点、卓越したところがある。
それは夜のカーチェイスシーン。
これが大変素晴らしい。

このシーンまでは、場をもたせるだけのBGM付きの退屈な切り返しショットによる会話シーンなども多く、だんだん飽きかけていたのだが、ここではそうした小細工は一切ない。
BGMもなし。鳴り響くのはひらすらにエンジン音とスキール音

古いアメ車が道路の照明に照らしだされて、バンパーや輪郭がハイライトに浮かび上がる。
それはまるで獲物を追い詰める獣の牙であり、唸るエンジン音はその咆哮そのものだ。
この映画はこのカーチェイスのためにあると言える。
CMで流れる鋭く浮かび上がる車のシルエットと、トムの眼光の鋭さ、こうした鋭利さを期待した人が満足するとしたらこのシーンにおいて他にないだろう。

と、ここまで褒めましたが

しかしながら、悪いところもある。
全体的に面白い作品だと思うし、退屈しないように作ってあるのはさすが脚本家出身だ。
しかし、どうにも映像におけるアイデアが足りない気がする。
変な撮り方はできるのに、正しく意味を伝えるための技量が不足していると思う。
ときどき間違ったイメージを与えてしまっている場面すらあったりして、観客を(悪い意味で)騙してしまっている。
ただ、光るところもある(前述の卓越したところなんて、並の監督じゃ撮れない)ので、今後に期待できる監督だ。

それに、脚本というよりも原作の限界があるみたいで、トムがチンピラをボコる→さらにボコる→さらにボコろうとしたところで黒幕に嵌められるけど、切り抜けて黒幕や真犯人、裏切り者を全員ぶっ殺す。だって俺アウトローだもん!みたいな話なってて、それってどうなのという感じがしないでもない。

そういう意味でとてもアメリカンな話なんだけど、途中で黒幕が普通に画面に出てきちゃったりして、しかもなんで黒幕なのかもわからないし、結局オマエ何だったの?という。ここら辺もアメリカンな感性でオーライなんだろうか。確かにB級映画にありがちな話ではありますが。

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原作は「ジャック・リーチャー」シリーズの最新刊なんですね。

ま、そういうわけでね、CM見て観に行ったけど物足りなかった人は『コラテラル』観てください。
鋭いトムなら間違いなくこの作品が最高です。

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