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過去記事置き場

日本語であることの幸運

村上春樹
好きか嫌いかは別にして、世界的な評価を得ている文学作品が日本語で書かれていて、それに直に触れられる機会があるということがとても幸運なことなのかなと思う。

日本の世界的な小説家と言えば他に誰が居るだろうか。三島由紀夫とか川端康成だろうか?
私は翻訳小説も好きだし、というか基本的に海外文学の方が好きなものは多いのだけれど、ときどき「ネイティブの言語で読むと、より美しいのだろう」と考えるのである。
例えば、ボルヘスは詩人としても知られているわけで、おそらく小説の方でも詩的な表現が出てきていると想像できるわけです。
けれど、日本語に訳された時点でそうした「魔法」はかなり削られている。
ネイティブで読めるというのは、そうした魔法に掛けられるということであり、とても羨ましい。

文学だけではない。
映画でも、字幕ではない生のセリフはとても重要だ。
ハリウッド映画でもフランス映画でも、ずっと字幕で観てきていた。そういうとき、たまに北野武の映画などを観ると、セリフと映像が一致して、今までと全く違う体験が立ち上がってくる。
字幕映画でも、あまり字幕を読まずにセリフの音に耳を傾けてみると、また違ったイメージが浮かび上がるものだ。内容はわからなくなるけど。

幸いにして、日本映画にも世界的な作品がある。
北野武もそうだし、黒澤明溝口健二小津安二郎なんてそうだろう。こうした作品が母国で生まれ、母国語で上映されていることもまた奇跡的であり、幸運なことなのだと思う。

当たり前のように受け取っているコンテンツが、他の国では同じようには行かないものは結構多いのではないか。先進国ではそれなりの数はあるのかもしれないが、新興国ではどうだろうか。自国の言語で、自国の文化を活用して、文芸や映画を制作し、それが世界的な評価を受けてきた作品はまだそれほどないところも多い。

私は結構アニメが好きなので、これをネイティブな日本語で放映されていることが実はとても幸運なことなのではないかと思い始めている。そして海外のファンは日本語の音を、ネイティブの感覚で味わえなくて大変だね、って思う。