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選択、集中、習慣化 - 『「できる人」はどこがちがうのか』

「できる人」はどこがちがうのか (ちくま新書)「できる人」はどこがちがうのか (ちくま新書)
著者:斎藤 孝
販売元:筑摩書房
発売日:2001-07
おすすめ度:4.0
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ページをめくると、段取り力、盗む力、コメント力、と書かれているけれど、それがあまり印象に残らない。それ以上に実例の中に多くの示唆に富むものがある。

元々卓球をやっていた青年が大学でテニスを始めた話、それから徒然草、最後に村上春樹。彼らの生き方、上達の仕方に型とスタイルを生み出す力があり、その反復中で一流へと登っていく。

私が所属していたテニスクラブに、卓球をずっとやってきたO君という学生が入ってきた。彼は卓球ではかなりの腕前だったらしいが、テニスは初心者だった。卓球とテニスはゲーム形式は似ているが、使われる実際の技術や筋肉は相当異なる。卓球をやっていたからといってテニスが初めからうまいということはない。彼の場合も、はじめは際立ってはいなかった。
しかし、彼の上達の速度は、尋常ではなかった。彼の諸技術の秩序づけの仕方は明確なものであった。彼のとったやり方は、自分のプレイスタイルをまずしっかり決め、そのプレイスタイルからして最も使用頻度の高い技術を徹底的に磨くというやり方であった。
(中略)得意技にすることに決めたフォアバンドの練習も、限定が徹底していた。テイクバックやフォロースルーの形にとらわれずに、インパクトを中心にした30センチほどの素振りを何百何千と反復して安定化させた。彼は自ら選択し限定した技術を徹底的に磨くことによって、テニスを始めて半年ほどでトーナメントで準優勝するまでになった。

P56 – 第二章 スポーツが脳をきたえる

次に吉田兼好徒然草が上達論であるというはなし。

若いうちは、諸々のことにつけて身を立てようと思いにかけているが、のんきに思って怠って、目の前のことにのみ気を紛らわせて月日を送ると、ものの上手にもならないうちに年をとってしまう。「走りて坂を下る輪の如くに衰へ行く」という表現は、強烈だ。

兼好の言っているのは、エネルギーの適当な配分や分散ではない。いわばエネルギーの「一点豪華主義」である。一生のうちで主に実現したいと望むようなことの中で、どれが勝っているのかよく思い比べて、第一のことを思い定めたならば「その外は思ひ捨てて、一事を励むべし」と言い切っている。

P126 -『徒然草』は上達論の基本書である

上記のどちらも、限定し集中することで成果を上げるというドラッガーの話に似ている。
前者は試合というミクロな集中であり、後者は人生というマクロな集中だが、どちらも漠然とした分散ではなく、明確な目標(試合に勝つ、望む人生)を達成するための技とも言える。
そしてその技を習得するには反復や盗む力と言ったところが関わってくるのだが、その根幹はスタイルではなかろうか、という構成なんだと思う、最後に村上春樹が出てくる。

村上は集中力と持続力というのは、コインの裏と表だと言う。どちらも鍛えればお互いを強め合う。例えば『ねじまき鳥クロニクル』は4年かけて書かれた。しかし、のべつまくなしに書かれたわけではない。

P189 - 第六章村上春樹のスタイルづくり

このあとで村上春樹は三ヶ月集中しては抜く、という書き方を述べる。
けれど、その三ヶ月の集中も肝心の部分は二週間なのだという。
その二週間の集中する期間に入るためには、その前の二ヶ月半、持続的に書き続けることなのだと語る。

「最初の二ヶ月半というのは、毎日毎日机の前に座って、とにかく何でもいいから書く。乗らなくても、つらくても、楽しくても、とにかくどんどん書いていく。朝四時に起きて、だいたい昼過ぎまでずっと書く。それを続けるわけ、次の日も次の日も。そうすると、だんだん、走る時もそうだけど、ここがつぼだと思うところに来る。そうすると入っていっちゃう。でもそこに入るためには体力がないとだめなんだ。その前の二ヶ月半くらいの我慢が続かないんだよ。」(ブルータス)

肝心なことは、高い集中のツボが来ることを確信できているということだ。その確信によって、そこまでの仕込みの期間を耐えることができる。(P190)

クリエイティブ集中状態にやがては突入するという確信があれば、つらい作業も何とか持続させることが出来る。この突入も自然現象ではない。突入までのプロセスを習慣化させ、技にしていくことによって、確信が生まれる。(P192)

出ました、習慣化。
選択を行い、習慣化を行い、確信を持つことで集中を生み出すことで成果に繋げる。
これが本書から読み取れること。
言っていることは他のビジネス書と同じかもしれないが、上記のような例が他の書よりも示唆を受け取りやすいと思う。
結論を知るまでもなくこれら例の数々に答えが含まれている。
このイメージのしやすさが「その理由は5つ!」とか勝手に要約しちゃうビジネス書とは違うところなのかもしれない。

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