nantekkotai achieves

過去記事置き場

『ソイレント・グリーン』

こんな傑作があるとは知らなかった。

ソイレント・グリーン 特別版 [DVD]ソイレント・グリーン 特別版 [DVD]
出演:チャールトン・ヘストン
販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
(2009-09-09)
販売元:Amazon.co.jp

1973年の映画だから、1968年の『2001年宇宙の旅』や1971年の『時計じかけのオレンジ』の流れで製作されたのかなと推測する。この2つのSF傑作と同じMGMが関わっている。

ゼノギアス』というゲームをプレイしたことのある人は「ソイレント」の言葉でピンとくるだろう。
あのゲームの中の「ソイレントシステム」はかなりグロテスクなものだったが、あれの元ネタがこの映画である。
最新のテクノロジーによってプランクトンから栄養満点のソイレント・グリーンとして生産されている食べ物の正体がアレなわけだが、気になる方はWikipediaのネタバレあらすじでも読んでくれ。

監督はリチャード・フライシャー。『トラ・トラ・トラ』の監督として知られる。
私もこの監督の作品を観るのは初めてなのだが、とても落ち着いていて丁寧な作りである。
素晴らしいのが、SFというものをとても考えて作っているのだなと感じられること。
世界観設定をただの設定として処理するのではなく、キャラクターが受け止める深刻な現実として描いている。
それはプロダクションデザインから、エキストラの配置、そして主なキャラクターたちの素振りというところで何度も何度も、その世界での現実というものを反復して描く。

この映画を観て、『TIME』という最近の映画を思い出した。
あれは設定は面白いのに、皆がただその設定を演じている程度にしか感じられなかった。
当時はそんなものかと思うに過ぎなかったが、もし先に『ソイレント・グリーン』を観ていたら評価の尺度もまた変わっていただろう。 

 SFという設定を抜きに語れば、ただの殺人事件を追う刑事ものなわけだが、行き着く先が犯人ではなくその世界の真実であり、そしてただ絶望するしかない結末だ。
仮に暴いた真実をひっくり返し、正義を押し通してみるとしよう。
すると直ちに食料不足に陥るという現実が待っているのだ。

今からするとあと10年でソイレント・グリーンが配給される世界になるとは思えないが、しかし構図としては「人が人を喰らう」社会というのは実現しており、それを証明するのが格差社会という現実である。
そして、こうした現実に今の自分たちも、劇中の人々も手を打てない。
解決策を知らない。
ただ間違っていることをひっくり返しても、報われない世界に生きている。

脳天気に観られる娯楽作品ではないが、むしろ脳天気にはなりたくない人には面白みのある作品である。
人を考えさせる力がある。
自分たちの未来は本当にこんな風になってしまうのだろうか?
そう考えるきっかけを与えてくれるという意味で「正しいSF作品」と言えるだろう。
おすすめ。