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経済発展は高賃金から始まる - 『なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか』

なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのかなぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか
著者:ロバート・C・アレン
販売元:エヌティティ出版
(2012-11-30)
販売元:Amazon.co.jp
高賃金で労働者を雇う国は、その高い賃金に見合う生産力を引き出す必要があった。
だから、積極的に設備投資や新しい機械の発明などをおこない生産性を向上させていった。

対して低賃金の国では、低賃金の労働者をそのまま働かせ続けたが安上がりだった。
なので、生産性は向上せず賃金も上昇しないまま貧困の罠に嵌まっていった。

前者は英国であり、後者はインドである。
産業革命によって英国は、高賃金にもかかわらずインドの綿織物を駆逐して世界一の生産量を誇るようになる。
そしてインドは英国の植民地となった。

さすが経済史の本だけあって、インセンティブや生産性と云う言葉が説得力のある数字とともに、なぜ豊かな国と貧しい国が発生したのかを説明してくれる。

しかし、そもそもなぜ英国が高賃金だったのか、というところを考えないといけない。
もちろんそれは大航海時代に覇権を掴んだからであり、英国の前はオランダがもっとも高賃金の国であったことは本の中で説明されている。
私が気になるのは、貧しい国を脱するためにどの国家も覇権を得ることができるわけではないということだ。

と、ここまで書いてみて重要なのは自由貿易なのかも、と思った。
帝国主義の時代にはブロック経済のような障壁があったから、植民地の多さ=持てる市場の大きさで国力が決まっていた。
それを自由貿易の輪によって、各経済圏が比較優位なものを生産できれば、それぞれでの地域で賃金が上昇するのかもしれない・・・。
理想論だが。

問題は、これらの理屈が長い時間・広い視野に立った真実であっとして、目に見える短期間・ミクロな視点では既得権益がつぶれたり、それに併せて失業者が発生するなどの問題が起きるだろう。
そして以下のような疑問も考えるようになる。
  • 最低賃金を上げさせたとして、それで本当に経済は回るのか?
  • 一人あたりの賃金が上がると、その分雇用される数は減るのではないか?
こういう政治的な部分についてこの本に解答はない。
経済学の外側の話なのだろう。

それにしても高賃金によって経済発展するというのは魅力的な話だ。
早く自分の賃金を上げてくれとも思う。

そして日本の現状について考えを巡らせるきっかけにもなる。

全員の雇用を守るために、賃金を減らして失業者を出さないようにしている日本的経営は本当に有益なのか。
安易に、労働者の賃金を押さえ込むことで収益を上げていると、そこから生産性の向上が生み出されないのではないか。

思うに、日本企業には低賃金で使い回される人たちがいっぱいいて、そのためにITの推進が遅れてしまったのではないか。
ちょうどITを使いこなさなければいけない時代に、日本は不況によって賃金を抑え込む方向に流れていった。
もしかしたら、この流れが失われた20年を生み出してしまったのではないか。

誰かが高いお金をもらうと、誰かが失業するだろう。
けれどもその結果、国家が栄え、全体の実質賃金の上昇に反映されるのならそれは意味のあることだ。

問題は、一時的な不平等に日本国民は納得できるのか、ということだ。

この本にあるのはただの知識だ。
そこから有益な行動を導き出すのは私たちで、この知識に対して感情的に納得することなどないに違いない。
だから私たちは20年も失われた時代を過ごしているのではないだろうか。